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心の風
八月、お盆。
十三年目の夏、私はおばあちゃんとお墓参りに来ていた。
お墓参りに来るのは、何回目かな。
小さい頃から、ずいぶん久しぶりに来た気がする。
私のおじいちゃんは、私の生まれる前に死んだらしい。
ずっとずっと前、結婚して、お父さんが生まれてすぐだったそうだ。だから、お父さんもおじいちゃんのことは記憶にないらしい。
もともと身体が弱かった人らしい。
おばあちゃんの話の中でしか、私はおじいちゃんを知らない。
「今年も、暑ぅなったね」
おばあちゃんが額をぬぐいながら目を細める。
「今年はやっちゃんがおるし、おとうさんもきっと喜んどるね」
青空に広がる入道雲。
私は、空を見上げた。空が広い。山だから、青空がずっと広いんだ。
「じいちゃんって、身体弱かったん?」
「そうよ。子どもの頃から、そうだったみたい。結婚した時、なんて言ったと思う?」
おばあちゃんは目を細めた。
「僕はきっと幸せには出来ないと思うけど、って。ふつう、結婚する時に言わないでしょう?」
ふふ、とおばあちゃんは笑った。
「まあね、数年しか一緒じゃなかったけど、幸せだったわ」
私は足元に目を落とした。
ずっと続く階段を、上る。上には、おじいちゃんが待っている。
霊園についた。
この時点で私は息が上がっている。おばあちゃんは何食わぬ顔で、すごいなと思う。ずっと、この階段を上ってきたんだな。
おじいちゃんのお墓は、奥にあった。
なんて書いているのかよくわからないお墓。おじいちゃんの名前が彫られているのはわかった。
「おとうさん、今年はやっちゃんも来てくれましたよ」
おばあちゃんは墓石を洗いながら、話しかける。
私はその横でおばあちゃんを手伝いながらお花の準備をする。
「綺麗になったね」
おばあちゃんが一息ついたのは、五分後。
墓石は潤いを持ったようで、確かにきれいに見えた。
お花を供えて二人で手を合わせる。
その時、おばあちゃんの横に、若い男の人が立った。
私は一瞬その人の顔を見る。どこかで見た顔だな、とぼんやりと思うけど、どこの人かまでは思い出せなかった。
「扶紀子」
おばあちゃんは後ろを振り向く。
そして、おばあちゃんは目を丸くした。
「……おとうさん、ですか」
おばあちゃんは何度も目をこすった。
私はただ立ち尽くしていた。
科学的にも、ありえない。死んだ人がかえってくるなんて、ありえない。
でも、二人とも確かに見えているのだ。
「元気そうだな、扶紀子」
「おかげ様でねえ」
おばあちゃんは、たぶんうれしかったんだと思う。
不思議な光景を、不思議だととらえていないようだった。
「この子は、やっちゃんですよ。おとうさんの、孫娘になります」
私はどうすればいいのかわからなくて、きょろきょろとした後に小さく礼をした。
おじいちゃんと言う若い男の人は一瞬目を見開き、そして目を細めた。
「そうか」
そうつぶやいただけだった。
「しばらくは会えないだろうが、元気でな」
そう言って、うっすらと消えていった。
私もおばあちゃんも、ただ立ち尽くしているだけだった。おばあちゃんは、目にうっすらと涙を浮かべていた。
「……びっくりしたけど、怖くなかった」
私がつぶやく。
「おとうさんは、優しい人なのよ。さ、やっちゃん帰りましょうか」
おばあちゃんはそう言うと、道具を持って歩き始めた。
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お盆の時期は過ぎたけど、八月に書いておきたかったテーマでした。
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