[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
16
「どうしたの井上さん」
仕事が終わった時、ふと麻生が声をかけた。
胡桃は思わず心臓が高鳴った。表情が引きつっているような気がした。
胡桃が言葉をのんでいるうちに、麻生は続ける。
「なんか、悩み事か?」
「い、いえ」
胡桃は思わず顔を抑えて何度も瞬きした。
冷静さを装わなければいけない。だけど、装うことが出来ない。
「以前は、すみませんでした」
「以前?」
「その、みっともないところお見せして……」
顔を赤くして言う胡桃に、麻生は笑った。
「それぐらい」
胡桃は赤面したまま顔を上げられなかった。
「だけど、業績が落ちてきてるのはちょっと気になるね」
麻生が表情を戻して口を結ぶ。
「悩んでもね、仕事に影響は出してはいけない」
「はい」
胡桃はしっかりとした声で答える。
胡桃は不思議ともやもやを感じなかった。
「井上さん」
「はい?」
「もしかして、何度か食事に誘ったことで困ってたりはしないか?」
麻生は口を結んでいたが、上司の顔ではなかった。
「そ、そんなことはないです」
胡桃は思わずうろたえた。
「困っていたら、私もついていきません」
「そう?ならいいんだけど」
麻生は小さく笑った。そしてその後に「無理はするなよ」と言った。
胡桃は困惑し、ただ立ち尽くした。
(2012.12.30 修正)
≪ 06 | | HOME | | 06 ≫ |