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01
その日は、雨が降っていた。
引越しの日に雨が降ってるなんてついてない、と胡桃は苦笑した。
平日ど真ん中の引っ越しに、昼間手伝いに来ていた母親が「変わりもんだよね」と笑い、胡桃は「うるさいよ」と小さく笑った。
「……買い物行くかあ」
朝から何も食べていなかったことを思い出した。確かにおなかが鳴っている。
財布を持って、夜の街を歩く。
手近なコンビニまで歩く。
傘をさしても少し濡れるぐらい、雨脚が強くなっていた。
「いらっしゃいませえ」
夜遅いコンビニは、ほかに男性客が立ち読みしているぐらいで誰もいない。
簡単に二品ほど選んで胡桃はレジに並んだ。
店員の名札を見る。
「……藤里君?もしかして、朝倉小の藤里君だよね?」
「井上さんか?」
男性店員がちらっと見ると、胡桃は表情が明るくなった。
「元気にやってんだねえ」
胡桃が笑うと藤里も笑った。
「井上さんってここらの人だっけ」
「引っ越してきたん。藤里君はここらに住んでるん?」
「高校卒業したぐらいかなあ」
「そっかあ。ほんと久しぶりだね」
胡桃が目を細めて言う。藤里の表情がほころんだ。
「でも、ここらは変な人ばっかやし、気ぃつけよ」
「変な人?」
「襲われんようにね」
「……さっさと帰るわ」
胡桃が表情が引きつるように小さく笑う。
そして店を出た。
コンビニの袋を下げながら夜道を歩く。
(……道端で寝てるよ)
道端に、大の字になって横たわる男性を横目で見る。顔が赤く、寝言のような独語が続く。酔っ払いだな、と胡桃は思った。
変質者その一、か。
胡桃はそのまま歩きながらかすかに小さく苦笑する。
次の日は仕事じゃないのだろうか、とか余計なことが浮かんだが、自分には関係ないことだと思い、そのまままっすぐ帰路へついた。
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